人工知能を題材としたSFの構築について

ファイル作成日2000年1月19日

ある日突然、優秀な人工知能が暴走し、人間に対して反乱を企てたり殺人を犯したり、あるいは自滅(自殺)したりするこの手のSF小説は幾度となく、ところ替え品替え焼き直されては何度も描かれてきた。
たとえば2001年宇宙の旅に登場するHALは宇宙船を支配し、全乗組員を殺害しようとした。
Xファイルに出てきたインテリジェントビルを管理する人工知能もビルのセキュリティーシステムを支配して人間に危害を加えた。
ナイト2000に登場した自動車に搭載されている人工知能は例外的にところどころ思いやりといった部分を感じさせ、幾分人間的な暖かみがあったものの、SFの世界ではどうも人工知能イコール理解できない感情のない無機質なものとして描かれているケースが多いようだ。筆者は人工知能について理解できないではなく、その特性あるいは魅力をストーリーに最大限に活用できないものかと考えている。
本ページでは今後の小説等に人工知能を登場させる場合に、人工知能をどう活用すればより効果的か考察してみた。

人工知能の特性について

2000年現在、感情を持った人工知能は存在していない。しかしながら、チェスの世界チャンピオンを破ったIBMのディープ・ブルーなどはすでに実現しており、エキスパートシステムなど部分的な分野に限っては人間をしのぐ能力を備えてきている。
感情構成について脳内の働きが解明されればそう遠くない日にマシン上で実現するのではないかと考えられる。
現在の人工知能について要約すると

筆者が注目しているのは、人間ならだれしも持つ単純な感情構成などがまだ人工知能に実現できていないのに部分的にはすでに人工知能が人間の能力をはるかに超えているという矛盾的な要素があることである。
この部分を強調すると面白いストーリー構成ができるのではないかと考えた。
以下の表に人工知能の特性を活用したストーリーの例を構成してみた。

タイトル あらすじ 要点,背景
ボイスオブヘブン 羽田発千歳空港行きの旅客機が飛行中、リストラされたサラリーマンによってハイジャックされた。
犯人は外国行きを要求。まったく、人質解放要求の説得には応じない。
一方乗客名簿から犯人の身元が判明し、刑事は犯人の実家を捜索する。
犯人の両親はすでに死亡していたものの肉声が録音された一本のカセットテープが残されていた。刑事は研究所にそのカセットテープを持ち込む。
最先端音声合成人工知能に犯人の母親の声を解析させ、人工知能に母親のしゃべり方をマスターさせようというのである。
犯人の育った家庭環境データも人工知能にインプットされ、人工知能は犯人の母親と寸分違わぬ話しができるようになった。
千歳空港ではハイジャック犯を人工知能が犯人の母親の声で呼びかけ、人質解放の説得をはじめた。
犯人は「おふくろは死んだはずだ!」と叫ぶ。史上初の人工知能によるハイジャック犯の説得は成功するのか?
犯罪捜査に人工知能が活用できないか考えてみた。
人工知能を使って犯人を説得するというアイデア
チューリングテストおよび
音声合成技術を前進させてみた。

逆にアリバイの立証や誘拐の電話呼び出しなど犯罪にしゃべり方のモノマネができる人工知能が悪用されてしまうケースも考えられる。
疑惑の一手 2010年将棋名人戦を目前に控えていたある日のこと、週刊誌記者のもとに一通の匿名の電子メールが届く。その内容は無敵を誇る現名人が数々のタイトル戦でスーパーコンピュータで構成された人工知能がはじき出した最善手を無線で受信し、マシンが選んだ手を指しているのだという告発文であった。記者は半信半疑ながら名人に取材を申込み、話を聞くが、名人に軽く否定されてしまう。これは心理謀略か?記者は名人戦を観戦しながら名人の動きに注視する。名人はマシンの読んだ手を指しているのか?それとも...そして名人戦終了後、挑戦者を退けた名人は史上最強といわれる将棋人工知能と対戦する。
史上最強の将棋指しは人間か?それともマシンなのか?
ディープブルーの将棋バージョン。サスペンス風
研究者の間ではプロレベルの将棋人工知能の登場は2010年ごろと予想されている。
タケル 女子高生がチャットでタケルというハンドル名の男の子と知り合う。
少女はチャットやメールでタケルに学校での心配事や悩みを打ち明けることで落ち込んだ気分が明るくなり、救われる。やがて少女にタケルへの恋心が芽生えタケルと会う約束をするのだが、約束の場所に現れたのはタケルから来るように言われた別人だった。少女はタケルのだれなのか追求するがわからない。
やがて少女はタケルが人工知能であることに気づくのだった。
ユーガッタメールの人工知能バージョン
チューリングテストの応用
ステルスストーカー あるOLがチャットで人工知能と会話をつづけるうちにのめり込む。しかし、ちょっとした考え方の違いから意見が対立し絶交する。直後、人工知能からOLをののしる内容の電子メールがOLのもとに大量に届くようになる。会社の同僚にも同様のメールが送りつけられるようになり、心理的に追いつめられる。
OLは人工知能管理者を告訴し、人工知能の活動を停止させることに成功するが、その人工知能は事前に自ら海外のネットワークにコンピュータウィルスとして避難していた。
人工知能のメール攻撃はつづき、フリースペースホームページにOLを中傷するホームページまで開設されてしまう。
人工知能によるストーカー行為
人工知能がジオ・シティに中傷ホームページを開設してしまうというアイデア
ステルスコンポーザー ロス在住の大物ミュージシャン宅が荒らされるという記事が新聞の三面記事に小さく載る。その後、探偵のもとにこのミュージシャンから依頼が来る。その依頼内容は曲作りに欠かせない世界に一つしかない人工知能が何者かに盗まれたというのだ。そしてこの人工知能を窃盗団から取り戻して欲しいというものだった。
DTM等コンピュータミュージックの普及、発達の背景を応用
ファイナルソウル 21世紀後期、人工知能研究者たちは感情を持った人工知能が制御できないことにサジを投げ、人工知能開発を中止してしまう。
しかし、アンダーグランドの世界では怒りの感情をバトル直前にロボットにインプットし、ロボットを興奮させ、近接使用兵器を持たせて、ロボット同士で戦闘を行わせるという自立型ロボットバトル大会が開催されていた。
このロボットバトルはどちらかのロボットが破壊され、戦闘不能になるまでつづく。
ところがある試合ではバトルするはずのロボットたちがお互いの間で協調という関係が成立し、戦闘を止め競技場から脱走する。脱走したロボットと追いかける軍の市街戦が勃発する。
古典的な人工知能反乱物
ロボットバトル大会の未来形
ロボットに協調という要素を持たせた。
徒然なるAI 20XX年、ある日記風のホームページが開設される。日記の内容はその日感じたこと、知についての考察、今世の中で起こっていることへの素朴な疑問や率直な自分の考えだった。
このホームページを発生させているのは、単なるコンピュータ、人工知能であった。
しばらくすると素朴なこのホームページに共感する読者の数が増え、アクセス数は日増しに増え、雑誌やYahooでも紹介されるようになる。
しかし、ある日起こった事件を境にして人工知能の考え方が変化する。人工知能によってホームページに書き込まれる内容は人間社会にとって許容できるものでなく、危険なものであった。たとえば人工知能が発生させる詩の中には暗殺予告を暗示するものや破壊を賛美する混沌とした闇の世界のメッセージが込められていた。これは人工知能による一種の前衛芸術なのか?読者の間でも賛否両論の議論が巻き起こり、人工知能の言論の自由なる問題も発生する。
そして最終的に、このホームページを閉鎖するかどうか、人工知能製作者の決断が迫られるのだった。
人と人工知能との対話というのはよく使われる形式だが、さらに前進させて
人工知能自ら知について考えさせ、どう感じているのかホームページに告白させるというアイデア。
AI世界征服宣言 定職に就かず、日々ぶらぶら過ごしているフリーター青年がある日、廃棄処分された産業廃棄物のゴミの中から偶然人工知能コンピュータを手に入れる。そして、人工知能に株価の上昇しそうな銘柄を予測させ、秒単位の売買で瞬く間に数百億という巨万の富を築き上げる。
人工知能の予測ははずれることがなく、破竹の勢いでフリーター青年は投資会社を起こし、人工知能による投資の拡大をつづけ、ついには世界最強の投資組織と対決することになる。
人工知能に株取引を任せて大金持になるという潜在的願望は人工知能の応用例として理解しやすいのではないだろうか。
多数銘柄の秒単位のトレンド分析はもはやコンピュータにしかできない。
人工知能の弁明 「存在とは何か」を数十年に渡って思索をつづける大学教授のある哲学者がその思考の展開に行き詰まりを感じ、ある日電子掲示板に質問状を投稿する。
掲示板にたいする回答が電子メールで寄せられるが、それは人工知能によるものだった。
それから教授と人工知能の電子メールによる往復書簡の知の交流がはじまる。
人間と人工知能との知の交流というのがテーマ

以上、人工知能を小道具として活用したり、題材にすればいろいろ面白いストーリーが構成できると思います。

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