
プロフィール
こう思ったのは中学2年生の時。あまり身体がじょうぶではなく,学校も休みがちだった私はテレビやラジオと過ごす時間が多かったので,声だけで何かを伝えたり,気持ちを表現する声優という職業に強く惹かれていきました。
体調が悪くて動けない時間が多い分,動けるときの瞬発力は他の人の3倍以上と自負する私ですので,なりたいと決まったら即実行と,声優学校の「第一期生募集」広告を見てオーディションを受けに行きました。大勢の前で演じ,自己をアピールするというのは,人生でこの時が初めてでした。そして,「私は表現者になろう」という意思が芽生えたのもこの時だったのではないかと思います。
このオーディションでは600人中30人という合格者の中に入りましたが,そのときの私はまだ13歳の子どもです。生活能力もなければ知識も教養もありません。母もオーディションを受けることまでは同意してくれましたが,いざ受かってそちらの道に今から入ろうとすると「あなたの合格がまぐれじゃなければ,何らかの才能があるのかもしれないから,しっかり自分を磨いて,大人になったときに自分の力で再挑戦なさい」と言って,賛成はしてくれませんでした。そのころ私は,人間の声は年齢とともに変化し,30歳くらいで落ち着いてくることを知りました。それで私はそれまでいろんなものを見たり聞いたり,いろんな人に会ったりして,たくさんの言葉やたくさんの表現方法を身につけようと決めたのです。
そして中3の春に,私は家の近くにあった放送局でラジオの公開録音をやっている番組を見つけ,通うようになりました。ディスクジョッキーのTさんが声優になりたいという私の話を親身に聞いてくださって,やれ修行だ,やれ仕事だと言っては,デスクにつかせハガキや宛先を読ませてくれました。放送局には高校卒業まで通いましたが,ここでの経験のおかげで度胸や話し方の基礎がかなり身についたのではないかなぁと思います。今でもこのときのことを思い出すことがありますが,Tさんには本当に感謝しています*1。
時期は同じく,高校で私は演劇部に所属していました。友人が副部長で,「人手が足りないの」と無理やり私を引っぱっていったのがきっかけでした。初めての役は「泉くん」という男の子役だったのですが,それを練習で演じるたびに面白くて面白くて,みるみる演劇のとりこになっていきました。部活の仲間もみな仲良しで,部活だと言っては集まり,大騒ぎしながら楽しく過ごしたものです。
そんなある日,音響を担当していた友人が「バンドをやろう」と言い出しました。私はピアノを習っていたこともあり,キーボード担当になりました。部活の仲間であっさり組んだ人生初バンドはなかなかのもので,きちんとスタジオに入って音を出すまでになりましたが,大学受験が迫ってくるころ,部活動引退とバンド活動も終わりを告げました。
高校卒業後,実家を離れて進学した私は,進学先でメンバーを集めバンド活動を始めましたが,ここでもまた人生の転機と出会います。私はこのバンドでもキーボードを担当していたのですが,たまたま一緒のライブに出た友人バンドのボーカルが当日来られなくなり,突然「歌ってくれないか」と声をかけられたのです。私も彼らの音楽ジャンルは知っていたし,もともと歌うことは好きだったし…。でも,それまで人前で歌ったことなどなく,高校時代の演劇にしても主役になれるほどではなかったと,いろんな思いが頭の中を駆けめぐりました。でも,目の前の困っている友人,迫るライブ時間,そして自分へのほんのわずかな期待 … 表現者を目指す私が引き受けるのには十分な理由でした。
ステージの中央に立って暗い客席を見渡すと,ざわついた緊張の波が身体中を駆け巡ります。深呼吸をひとつ。ドラムのカウントが鳴ってベースラインを聴きながら歌い出したとたん,自分の周りは音だけの世界になり,そこに自分の出した音が混ざり合ってひとつの音楽になっていくのだけが感じられ,最高の気分に包まれました*2。
この日以来歌の魅力に取りつかれた私は,来る日も来る日も詩を書いては曲を作る日々を過ごしました。私にとっての学生時代は音楽と舞台と文章と,感性を磨くためには非常によい時間であり空間でした。大学3年の頃,ミュージカルのオーディションに通って女子高生ドラマーの役を演じたというエピソードもありますが,それはまた別の機会に(笑)。
今でも音楽は続けています。学生のころほど活動は盛んではありませんが,音楽はもう私の生活の一部なのです。あこがれていた「声だけの表現力」は,今では歌へと形を変えて,音楽で表現することの素晴らしさを私に教えてくれるのでした。自分の想いを自分の言葉で,歌で,大好きな人たちに伝えていける人間になりたいと,心から願う今日このごろです。

*1 イニシャルトークは気になりますね。何という方なんでしょうか。
*2 この文章だけ読むといろいろな人との出会いで順調に過ごしているように見えますが,直接話を聞いてみると,実際には病気で命が危なかったり,大学進学前にも一騒動あったり,けっこうすごい人生を送ってきたそうです。