カウンセリング関連の文献案内
文献案内
最近、「心の教育」の必要性が叫ばれています。もちろん、心の教育は大切です。そのことについて異議を唱えるひとはほとんどいないと言ってよいでしょう。しかし、「心の教育」の定義はじつはあまりはっきりしていません。
道徳教育の研究者の中には、「心の教育の中心は道徳教育である」と主張する人もいますが、実際に、小・中学校の現場で「心の教育」の名のもとに行われているのは、カウンセリング的教育であるように思われます。また、「心の教育」はカウンセラーの仕事であるかのように語られることもあります。
他方、カウンセリング的「心の教育」は、実践レベルでは個人の心の健康を中心に据えることが多く、社会的規範を教える(これは従来道徳教育の中心的な部分と考えられてきた)という点では不十分であるように私には思われるのです。
そこで、私としては、カウンセリングと道徳教育を統合した形で「心の教育」を構想したいと思っています。そういった興味から、カウンセリングに関する文献案内をします。とはいっても、両者の関連を論じた文献はあまりありませんので、取り上げられる文献は、一般的なカウンセリングの入門書が中心になります。できるかぎり、日本語で読めて、書店等で入手可能なものを掲載します。
最終訂正日:2001.11.24
目次
入門書/
神田橋條治/
教師カウンセリング/
構成的グループエンカウンター/
資格/
実存分析/
スクールカウンセリング/
折衷主義/
ナラティヴ・セラピー/
カウンセリング一般への入門書を取り上げます。特定の立場が色濃く出ている入門書は、それぞれの分野に掲載します。
- ●林昭仁・駒米勝利(編)1995『臨床心理学と人間−「こころ」の専門家の学問ばなし−』三五館
- 幕の内弁当みたいな本である。たんに臨床心理学を紹介するだけでなく、「カウンセラーにならないこと」とアドバイスする人もいたりして、興味深い。
- ●福島脩美1997『カウンセリング演習』金子書房
- 初学者にとって、カウンセリングとは具体的にどうすることなのかがわからなければ、理念だけ説かれてもわかった気がしない。そういう意味では、本書は、演習のテキストであり、具体的なやり方がじつにわかりやすく書いてある。かといって、たんに初歩的なカウンセリング・テクニックの問題だけに終始しているわけでもない。私はこの本を読んで、著者のカウンセリング研修会に出席してみたいと思った。(出席してみて・・・温かい感じの先生でした。)
- ●横湯園子・高垣忠一郎(編)1997『心の視点−カウンセリング・トレーニング−』青木書店
- 「1 カウンセリングする心」「2 私がカウンセラーになるまで」「3 教育相談のいろいろ」の3章と「補章 大人にはメルヘンが必要だ」からなる。補章だけちょっと他の章と違ったテーマかな、という感じがするが、この補章が私には一番面白かった。今度高校生にもメルヘンを作らせてみよ〜っと。
- ●鈴木秀子1999『愛と癒しのコミュニオン』(文春新書047)文藝春秋
- とくにカウンセリングを勉強したい人のための本というわけではないが、「聞く」ということをテーマにカウンセリングの基本が示されている。「第1章 他者に聞く」「第2章 自分に聞く」「第3章 コミュニケーションの知恵を活用する」「第4章 大宇宙に聞く」の4章立て。第4章はちょっと宗教的。著者の鈴木氏はエニアグラムの研究で有名。
- ●鷲田清一1999『「聴く」ことの力−臨床哲学試論−』TBSブリタニカ
- 臨床哲学とはいっても、やはりどこかしら自己反省的な部分を引きずっている。「聴く」ことの力についての沈思黙考・・・、仕方ないか。最近は臨床ばやりですが、臨床っていったい何でしょうか?(わけのわからないコメントになりました。哲学研究から「心の教育」研究の世界に移った私としてはとても気にいっています。とにかく読んでみてください。)
- ●伊藤隆二1998『「こころの教育」とカウンセリング』大日本図書
- 著者は、臨床心理士という資格を持っていれば悩みが解決できるというような考え方に批判的である。彼は、自らのカウンセリングの立場を「間主観カウンセリング」と名づけ、カウンセラーとクライエントが共に育ち合うことの大切さを説いている。「同行教育」を説く伊藤氏らしい論である。
- ●神田橋條治1990『精神療法面接のコツ』岩崎学術出版社
- 『追補 精神科診断面接のコツ』を先に読んだ方がよいと思う。追補版ではない『精神科診断面接のコツ』は1984年の刊行。神田橋氏の本は、私は、カウンセリングの師匠から薦められた。他に市販されていない『治療のこころ』巻1〜巻9、『初心者への手引き』(花クリニック神田橋研究会発行)も興味深い。
- ●神田橋條治1994『追補 精神科診断面接のコツ』岩崎学術出版社
- 言葉にできないような、診断面接の名人芸的コツをなんとか日常の言葉で表現しようとしている。著者は精神科医なので、本書の内容はカウンセリングの面接とは異なる部分もあるかもしれないが、共通する部分もある。なによりも本書がすぐれているのは、私のような初学者が読んでもわかるように書いてあることだ(しかし、著者が体験したことをもとに論じられていることも多いので、やってみてはじめてわかるという点もあるにちがいない)。
- ●神田橋條治1999『精神科養生のコツ』岩崎学術出版社
- コツ・シリーズ三部作の締めくくり。しかし、ますますあやしい世界に入り込んできたな、と思うのは私だけ?
- ●井上信子(著)/神田橋條治(対話)2001『対話の技:資質により添う心理援助』新曜社
- 一文で表現すれば、神田橋氏の技が井上氏と出会い、受け継がれ、ゆっくりと流れながらも活字につなぎ止められている、というような本。もっと短く言うと、とても素敵な書物。
教師が学校現場で校務分掌としてカウンセリングを行う場合、その教師は「教師カウンセラー」と呼ばれる。教師ではない外部の専門家が学校でカウンセリングを行う場合、そのカウンセラーは「スクールカウンセラー」と呼ばれる。しかし、この区別は、1995年に始まった「文部省スクールカウンセラー活用調査研究委託事業」以降に定着したようで、それ以前の文献では、そのような捉え方になっていないものも多い。
- ●蔭山昌宏1999『子どもを救う学校カウンセリングの進め方』黎明書房
- 教師としてカウンセリングを行ってきた著者による学校カウンセリングの実践についての書物。文部省のスクールカウンセラー活用調査研究委託事業は外部の専門家をスクールカウンセラーとして学校に招くというスタイルになっているが、著者の蔭山氏は、それでは生徒達に、先生は自分たちの問題に真剣に取り組んでくれない、という思いを抱かせることになってしまうのではないかと危惧している。
- ●松原達哉(編)2001『教師のためのカウンセリング技術』(スクールカウンセリングの実践技術[全6巻]No.1)教育開発研究所
- 「問題のある児童・生徒の想起発見・観察法」から始まって、いくつかのカウンセリング技術の説明がある。個人的には、「キャンプによる不登校生の指導」が興味深い。でも、キャンプとか、さまざまな集団行事が、カウンセリング的な意味合いをもつということなら、あえてカウンセリングなんかやらなくても、「学校行事を中心とした教育」をすればよいのでは・・・
教育現場ですぐに使えるような実践的な書物がたくさん出ています。ここでは、あえて理論的なものをあげます。
- ●國分康孝(編)1992『構成的グループ・エンカウンター』誠信書房
- ●國分康孝(編)2000『続・構成的グループ・エンカウンター』誠信書房
- ●國分康孝/片野智治2001『構成的グループ・エンカウンターの原理と進め方〜リーダーのためのガイド〜』誠信書房
- エンカウンターの本はたくさん出ているが、この本はリーダーのためのガイドブックである。教室でやってみようと思ってハウツー的な本を買われた方は、ぜひこの本も読んでほしい。
カウンセラーの資格取得に関して書かれている書物を取り上げます。
- ●法学書院編集部(編)1998『心理カウンセラーの仕事がわかる本』法学書院
- 「仕事がわかる本」シリーズの1冊です。
- ●日本臨床心理士資格認定協会(監修)1998『臨床心理士になるために(第11版)』誠信書房
- 臨床心理士の資格取得のための条件が説明されている。過去の試験問題も収録されている。
- ●V.E.フランクル1957『死と愛:実存分析入門』みすず書房
- ビンスワンガーの実存分析とは違った、フランクル独自の実存分析への入門書
- ●V.E.フランクル1961『夜と霧:ドイツ強制収容所の体験記録』みすず書房
- 限界状況における人間の在り方について、自己の体験をもとに考察されている。あまりにも有名な書物。
- ●V.E.フランクル1993『それでも人生にイエスと言う』春秋社
- 生きる意味についての悩みは、青年たちを実存主義へと導き、哲学や倫理学を勉強しようという気にさせる。しかし、実際に大学で哲学や倫理学を専攻してみても、誰もそんなことを論じてはいない。で、がっかりするわけですが、そんなときに読むことをお勧めします。
- ●V.E.フランクル1997『宿命を超えて、自己を超えて』春秋社
- 講演・対談集。
- ●V.E.フランクル1998『フランクル回想録:20世紀を生きて』春秋社
- 回想録。フランクルの写真もたくさん掲載されている。
- ●諸富祥彦1997『フランクル心理学入門:どんな時にも人生には意味がある』コスモス・ライブラリー
- フランクル心理学の入門書。フランクルを紹介するの人物篇からはじまり、自己発見篇、原理篇、臨床篇、資料篇からなる。とてもわかりやすく書かれている。
- ●諸富祥彦1999『どんな時も、人生に"YES"と言う:フランクル心理学の絶対的人生肯定法』大和出版
- フランクルの説く「創造価値」、「体験価値」、「態度価値」について書かれている。
- ●村山正治1998『新しいスクールカウンセラー:臨床心理士による活動と展開』ナカニシヤ出版
- 現在、文部省のスクールカウンセラー活用調査研究委託事業が進められているが、その事業に当初より関わった著者がその経緯などを記したものである。著者は、日本臨床心理士資格認定協会の理事でもある。
- ●村山正治/山本和郎編1995『スクールカウンセラー:その理論と展望』ミネルヴァ書房
- 本書は理論編と技術編と実践編からなる。具体的に学校の中でどんな活動が行われているのかが記されている実践編が興味深い。
- ●鵜飼美昭/鵜飼啓子編1997『学校と臨床心理士』ミネルヴァ書房
- ある研修会で、鵜飼御夫妻とお会いしました。素敵な御夫婦でした。
- ●国分康孝1979『カウンセリングの技法』誠信書房
- ●国分康孝1980『カウンセリングの理論』誠信書房
- 折衷主義の立場から、いろんなカウンセリング理論が紹介されている。
- ●武田建1984『カウンセラー入門:多角的アプローチ』誠信書房
- 1つの立場にこだわらず、クライエント中心療法、精神分析的カウンセリング、オペラント条件づけ、行動アプローチなど複数の立場を取り上げた入門書。
- ●シーラ・マクナミー/ケネス・J・ガーゲン編1997『ナラティヴ・セラピー:社会的構成主義の実践』金剛出版
- ●小森康永/野口裕二/野村直樹編1999『ナラティヴ・セラピーの世界』日本評社
- サイコセラピーのポストモダン
- ●C・ホワイト/D・デンボロウ編2000『ナラティヴ・セラピーの実践』金剛出版
- ●大村英昭/野口裕二編2000『臨床社会学のすすめ』有斐閣
- 野口裕二氏の書かれた「第1章サイコセラピーの臨床社会学」の中で、ナラティヴ・セラピーが言及されている。
- ●大村英昭編2000『臨床社会学を学ぶ人のために』世界思想社
- 小林多鶴子氏が「人生の語りとナラティヴ・アプローチ」というタイトルの章を書いている。内容的には「ナラティヴ・セラピー」というよりは「ナラティヴ社会学」である。臨床社会学を語るさまざまな人達の間には、温度差が感じられる。「臨床」を強調する人もいれば、「社会学」を強調する人もいる。
- ●上野千鶴子編2001『構築主義とは何か』勁草書房
- 野口裕二氏が「臨床のナラティヴ」という章を書いている。
- ●シュタイナー・クヴァル編2001『心理学とポストモダニズム〜社会構成主義とナラティヴ・セラピーの研究』こうち書房
- 理論的考察を中心とした本です。ナラティヴ・セラピーの背景となっている思想を知りたい方向きの書物です。
- ●J・ウィンスレイド/G・モンク2001『新しいスクール・カウンセリング』金剛出版
- 原題を直訳すれば、「学校におけるナラティヴ・カウンセリング」。学校現場での具体的な事例があげられており、わかりやすい。相談室内のカウンセラー対クライエントの1対1関係にとどまらないナラティヴ・カウンセリングのあり方が示されているようで、治療だけでなく教育にも携わる学校教育相談の方法として可能性を感じさせられた。もし学校の先生方に、ナラティヴ関連の本を1冊だけすすめるとしたらこの本を薦めます。
- ●高橋規子/吉川悟2001『ナラティヴ・セラピー入門』金剛出版
- 上にあげたウィンスレイドらの書物から判断すると、ナラティヴは、とても社会学的な雰囲気なのだけれども、この本を読んで、やはり、個別対処という意味で心理療法なのだなと思ってしまった。私は、スクールカウンセラーの仕事は、現場の先生方といかに連携するかという点を中心に構築されなければならないと思っているが、この書物から判断すると、ナラティヴ・セラピーといえども、相談室内のカウンセラー対クライエントの1対1関係に限定されるようだ。そのように書いてあるわけではないが、それが前提となっているようだ。それはカウンセリングにとってはあたりまえのことなのだろうか。
- ●野口裕二/大村英昭編2000『臨床社会学の実践』有斐閣
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