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U おいしい水は甘い!?

 会社の厚生施設を手配するため越後湯沢へ出かけた。国境のトンネルを抜けたが、暖冬のせいか雪はそれほど多くない。必要な日用品を用意しようと駅前の商店街に立ち寄る。天気が悪いわけではないが、ひどく道路がぬれていた。

 気がつくと車道のセンターラインに沿って四方に噴水が出ている。融雪あるいは凍結防止のために散水しているのだ。なんとも風変わりな光景である。話には聞いたことがある。しかし、実際にそのような所を歩くのは初めてだった。横断歩道を渡るときには左右から来る車だけでなく、水がかからないように気をつけなければならない。

 ひととおり買い物を済ませ、タクシーに乗った。散水が延々と続く。上りの山道にかかると、平地よりも水量が多くなってきた。排水を受けきれずにあふれている側溝もある。運転手さんの話では地下水ということだが、これほど汲み上げてよいものか心配になった。

パノラミック湯沢  10分ほどで目的地のマンションに到着した。フロントで尋ねたところ、この建物の水も地下水だという。一休みしてから部屋の風呂に入った。温泉ではないが、カルキ臭のない湯はいいものだ。沸かしたてでも、心なしか皮膚への刺激が少ないように思える。

 湯上がりに水を飲んでみた。蛇口から直接グラスに注ぐ。無色透明できらきら輝き、澄んでいる。口に含むと“切れ”がよく、なんとなく甘みがある。
「うまい水は甘い味がする。そんな水を使うとおいしいご飯が炊ける」
と何かで読んだことを思い出し、早速、売店で米を求めてきた。ラベルには『平成二年産、T類コシヒカリ百パーセント、産地新潟県』とある。

 水洗いして、試しにすぐ炊飯器のスイッチを入れた。こんな乱暴な炊き方は普通はしないのだが、なんと東京で毎日食べているご飯よりもうまく炊けた。そういえば、湯沢へ来たらご飯のおいしい食堂が多い。
〈米も新しいが、水もいいからだ〉
と勝手に解釈した。

 場所は違うが、利根川源流に近いわたしの田舎の水道は井水を混ぜていないのにカルキ臭は少ない。故郷の水はだれでもそう感じるのかしれないが、今思えばなかなかうまい水だった。二十数年前にその田舎から出てきて以来、東京近郊を転々と移り住み、行くさきざきの水がまずくて飲む気にはなれなかった。それが不思議にも湯沢の水は何杯でも飲める。うまい水を久しぶりに口にしたら、瓶にでも詰めて持ち帰りたいような気がしてきた。


(C) 1991 k-tsuji
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