X | 活性炭はよみがえる!? |
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東京の水道水に含まれている残留塩素は
「採取場所や時刻によっても違うが、0.7〜0.8ppm程度検出されるのが普通」
と、ある分析センターで教えてもらった。これだけ含まれていると、普通の人ならカルキ臭がはっきり分かる。1トンの中にわずか1グラム混じっているのが1ppmだから、人間の鼻は鋭敏な塩素の検知器なのだ。
横浜から通勤しているK子さんは卓上型活水器愛用者の一人である。毎日4〜5リットルの浄水を造り、電気ポットと飲用に供しているという。彼女のご主人は味に非常に敏感な人物で、水道水はまずくて飲まない。ある日、ご主人から
「最近、この活水器はカルキがあまり取れなくなってきたぞ」
と言われた。
会社でたまたま活水器の話が出たとき、K子さんが質問した。
「わたしの家で使い始めてまだ3ヵ月ちょっとですが、もう活性炭の寿命がきたのでしょうか」
残留塩素測定器で調べたところ、0.6ppmの原水を処理したが0.3ppmまでにしか下がらないという。これは人間が感じることのできる最低ラインに近い数値であるから、確かに彼女のご主人は感覚が鋭い。まだ半分程度の塩素は除去できるものの、敏感なご主人には鼻につくのだそうだ。
明くる日、効力の低下したカートリッジをバッグに入れて出社したK子さんに
「活性炭というのは、塩素を吸着しても変質してしまうわけではない。なんらかの処理を施して賦活する商売もあるらしい。熱湯で煮沸するか、さもなければ強火で煎れば、塩素が追い出されてまた使えるようになるかもしれない」
と話した。
生まれつき好奇心旺盛なK子さんは早速やってみることにした。ねじ回しと金づちでカートリッジを分解すると、大量の活性炭と少量の白い大理石が出てきた。活性炭を分離してアルミなべに移し、まず、お湯で煮沸した。吸着されている塩素が出てくれば臭気で分かるはずだが、いくら煮ても塩素のにおいは感じられない。この方法はあきらめた。
次に、水を捨てて煎ることにした。水が蒸発した後、強火でなべの底が変形するほど灼熱したら、急に刺激臭がしてきた。意外にも、塩素というより塩酸のにおいに近い。pH試験紙をかざしたら強い酸性を示した。
〈ひょっとしたら吸着されている塩素と水が高温で反応して塩化水素になるのではないか〉
と考えた。もし、この推測が当たっていれば水道水から塩酸が採れることになる。
事務所中に強烈なにおいが立ち込めたが、30分ほど加熱し続けたら臭気が弱くなった。火を止め、なべが冷えてから活性炭を元のカートリッジに戻す。今度はうまくいきそうだ。水道水を通し、オルトトリジン*を加えた。果たして、全然変色しない。残留塩素は完全に吸着されている。活性炭が賦活したのだ。
K子さんはルンルン気分で帰宅した。持ち帰ったカートリッジを活水器にセットし、浄水を造った。夕食時、何事もなかったかのように、いつもどおりテーブルの上に置いた。それを飲んだご主人が口を開いた。
「おい、この水がまたうまくなっているぞ」