2015.11.23更新
印が主な更新個所です。)

■事典、地図

「何かを学ぶときに、まず事典を読むことから始め、これを精読するのは、学問のひとつの常道である。」

(加藤常昭『自伝的説教論』、p.248)

1.キリスト教事典

総合的なもの

日本基督教協議会文書事業部キリスト教大事典編集委員会編、『キリスト教大事典』、教文館、19631,1968改訂新版、1600頁、35000円。
編集委員長は桑田秀延。約1万項目。教会史や組織神学の事項をまず簡単に調べるのにとっても役立つ。さらに詳しくは他の神学事典を見る。ただし、「直観」「並行論」などの哲学用語ははたして必要だろうか? 「技術社会と人間」などという項はいったい誰かに引かれるのだろうか。「秘義」の項はない。巻末の索引は、英語、ドイツ語、ラテン語などから引けて意外と便利。

特徴あるもの

日本キリスト教歴史大事典編集委員会編、『日本キリスト教歴史大事典』、教文館、1988、1736頁、45000円。
項目数約1万!、執筆者およそ1200名とのこと。教文館創立100年記念事業として出版された。いろんな教派、教会の歴史、人物、事件が載っている。人物の項目数はすごいが、1986年末までに死去した人名を採録。その時に存命の方は載っていない。各都道府県別のキリスト教史も網羅しているらしい。編集顧問:石原謙、久山康、隅谷三喜男、武田清子、松村菅和(カトリック司祭)。編集委員長:海老沢有道。
日本基督教団出版局編、『キリスト教人名辞典』、日本基督教団出版局、1986、2114頁、43000円。
旧約聖書人名、古代人名から存命中の人まで、キリスト教に肯定的、否定的に関連した1万6千余の人名を収録。ただし、人名のカナ表記はかなり独自。編集委員は加藤常昭、荒井献、鵜沼裕子、小塩節、熊澤義宣、高橋昌郎、出村彰、宮谷宣史、山内真。執筆者の中に、赤木善光、大木英夫、芳賀力、竹森満佐一らも名前を連ねている。
大貫隆・名取四郎・宮本久雄・百瀬文晃編、『岩波キリスト教辞典』、岩波書店、2002、1432頁、7500円。
約4500項目。編集協力者15名。執筆者321名。しかしその中で東神大の現任教授は近藤勝彦のみ。全体的には、信仰者向きというよりも、教養や学問として現代社会におけるキリスト教の意義を知りたい人向けという感じ。とはいえ、よく説明されているので、『キリスト教大事典』(教文館)を十分補ってくれるだろう。項目には、「嵐を鎮めるキリスト」、「荒れ野で叫ぶ者の声がする」、「死よ、おまえのとげはどこにあるのか」、「趙繩」などもある。文学、音楽、美術、映画などの作品の項目も多いのも特徴のようだ。特に「デビルマン」の項目があるのが話題になった(?)。あっておかしくはないけどない項目は、「祈祷会」「式文」「召天」など。巻末の「人名対照表」は、聖書に出てくる人名の各国語表記が対照できてよい(でも読み方がわからない(^^;)。また、聖書やキリスト教の習慣にちなんだ諸言語での慣用表現、比喩表現を25頁にわたって集めたのもユニーク。

2.聖書辞典

2.1 小型のもの

秋山憲兄監修、『新共同訳聖書辞典』、新教出版社、20011,20052、カラー口絵8+5+597頁、2940円。
ハンディな聖書事典として手頃で信徒にお薦め。項目数2420。巻末に新共同訳聖書の全小見出し一覧、固有名詞等の新共同訳と口語訳の対照表、年表など。執筆者は記されていないが、これのもとの新教出版社編集部編『聖書辞典』(1968)には、浅見定雄、今橋朗、大串元亮、大沼田実、川村輝典、佐藤陽二、東海林勤、十時英二、馬場嘉市、和井田学の10名。

似たようなところで、キリスト新聞社の『新聖書大辞典』を元にした『小型版新共同訳聖書辞典』(木田献一、和田幹男監修、616頁、2400円)もある。これらは教会学校の小学校上級でも使えて便利。でも、新教出版社の方が、文字は細かいが見出し語がより多いし、「共観福音書」「三位一体」「聖化」「正典」など神学的教理的な語も載っている。

『エッセンシャル聖書辞典』(山口昇監修、いのちのことば社、3200円)も悪くない。新改訳のみならず、新共同訳にも対応している。2006年に新改訳第3版に対応して、『新エッセンシャル聖書辞典』となった。

小塩力、山谷省吾監修、『旧新約聖書神学辞典』、新教出版社、1961、2004復刊、510頁、2500円。
2004年に新教出版社創立60年記念で復刊。とてもハンディな小型の事典で、聖書の中の重要語句のみを取り上げている。東神大編『新約聖書神学事典』にあるような聖書学関係の用語はない。教団出版局の『新共同訳聖書事典』にあるような聖書の地名・人名などはない。見出しは、「愛」、「証し」、「贖い」、「崇める」、「悪」、「悪魔」、「悪霊」、「新しい」、「アーメン」、「憐れみ」、「按手」、「安息」といった感じ。『新約聖書神学事典』や『新共同訳聖書事典』と併用すると良さそう。
主な執筆者は、浅野順一、石原謙、大串元亮、熊野義孝、左近義慈、関根正雄、竹森満佐一、船水衛司、松木治三郎、松永晋一、村田四郎、山谷省吾ら。

2.2 中型のもの

木田献一、山内眞監修、『新共同訳聖書事典』、日本基督教団出版局、2004、750頁、6400円。
中型の聖書事典。樋口進、中野実編集。約3400項目。『旧約聖書略解』、『新約聖書略解』の姉妹版で、かつての『聖書事典』(1961)の新版という位置づけ。字が大きくて見やすい。巻頭カラー写真は16頁。各書緒論も簡潔でわかりやすいが、「続編」の文書は項目にない。この規模の辞典で、聖書に出てくる人名や地名を網羅する必要があるのかは疑問。それよりも信徒の学びに資する語句をもっと見出しに取り上げてほしかった。
主要な用語には執筆者名が記されているのはよい。新刊案内には「日本を代表する聖書学者36名が総力を結集」とあるが、執筆者リストはない。広告によれば、監修者編集者の他は、青野太潮、荒井英子、荒井章三、飯謙、池田裕、石川栄一、大串肇、大島力、小友聡、笠原義久、柏井宣夫、勝村弘也、加藤善治、金井美彦、加山久夫、川村輝典、北博、高橋敬基、田淵結、土戸清、土屋博、土岐健治、永田竹司、中村信博、橋本滋男、松永晋一、水野隆一、守屋彰夫、山我哲雄、山田耕太、山吉智久、和田幹男。
「バアル」の項の「母はアシュタロト」という表記は、地名は「アシュタロト」だが、新共同訳でのカナン宗教の女神の名は「アシュトレト」なので、「母はアシュトレト」とすべき。
巻末のヘロデの系図に微妙な間違いあり。
見出しになくて残念な項目:いちじく(「イチジク桑」はあるが)、三位一体、正典、聖書(「福音書」はあるのに)、パン、弟子(「使徒」はあるのに)、裁き、審判(「終末」の項はあるが、終わりの時の裁きについては全く不十分な記述)、宣教、ケリュグマ、啓示、倣う、似姿、神の像、神のかたち。「秘められた計画」も新共同訳聖書で採用された訳語だが、ない。「僕」と「主の僕」の項には、それぞれ双方を参照できるような指示がほしかった。「ユダ」の項は人名だけで、王国名の「ユダ」の説明がない。「イスラエル」の項にはあるのに。
●目にとまった項の内容について
「癒し」の項(中野実)
「病気が超自然的な力(例えば悪霊)によって引き起こされるという考え方も聖書には見られる」とあるが、ここは「病気」の項ではなく「癒し」であるので、これだけではまことに不十分。その文のところでマタイ15:21-28や17:14-20を引照するのであれば、癒しと信仰との関係を指摘するべきではないか。
「樫」の項
「テレビンの木」を引くと「樫」の項目を見よとなっているが、「テレビン」というカタカナが何のことか、「樫の木」という表記とどう違うのかは、「樫」の項の説明ではわからない。  また、「樫」の項の説明では、「樫」という日本語が「数種類の類似した木の呼称」だと言っている文に読める。なぜそう読めてしまうかというと、「それらの区別は明確ではなく」の「それら」は、「樫の木」と「テレビンの木」を指している文になっているからである。なぜならば、そのあとで「原語も」と来るので、その前は、訳語のことを指していると解される日本語になっているからである。  さらに、「一般に」と言ったら定説を語るべきで、「・・・と思われる」と結ぶのは奇異である。  この項は、例えば次のようにすべき。「樫の木に類似した木を指すヘブライ語はいくつもある。その多くは同一の語根の変形であるので、それらは数種の類似した木を指していると考えられているが、その区別は明確ではない。これらは「樫の木」あるいは「テレビンの木」と訳されている。テレビンとは、・・・」
「サラ」の項(水野隆一)
「サラは重要な登場人物でありながら、必要なところでだけクローズアップされているに過ぎない。その意味でもアブラハム物語は家父長制に基づいた物語であるということができる。」と結ぶが、この指摘はまったく意味がない。この項は「アブラハム物語」の項ではなく、「サラ」の項である。サラの人物像が「キャラクターとして十分に書き込まれているとは言えない」ならば、なぜ特定の箇所でのみクローズアップされているのかを解説の中心に据えて、そこにサラの意味を見出すべきである。
「復活」の項(山内眞)
記述が難しすぎ。信徒にはおそらくまったく理解不能。たとえば、「早期にカテーケーシス型信仰告白伝承と伝道説教型ケーリュグマに組み込まれ・・・」など。監修者ならば、事典の編集方針をわきまえているはずなのに。この事典の性格からすれば、各福音書の復活記事の特徴を述べるべき。

2.3 大辞典

荒井献、石田友雄編、『旧約新約聖書大辞典』、教文館、1989、1456頁、45000円。
聖書に出てくる地名・人名・言葉、聖書に関する用語・事項を調べるのにとっても役立つ。高価だが、持っておいて損はないはず。これの巻末の聖書歴史年表に教科書的な時代史的叙述を合わせたものに、山我哲雄、佐藤研『旧約新約聖書時代史――聖書歴史年表つき(別冊)』(改訂版、教文館、1997、312頁、3800円)がある。初版は1992だが、1997に改訂版が出た。年表は改訂されてより一層くわしくなっている。

『旧約新約聖書大辞典』が出る前の聖書大辞典としては、馬場嘉市編『新聖書大辞典』(キリスト新聞社、1971)があった。執筆者101名。口語訳聖書準拠。1988年第7版が2008年復刊。

3.神学事典、その他の辞典・事典

3.1 東神大の三事典

以下の三冊は必需品。神学生一年目はちんぷんかんぷんだったが、だんだん価値がわかるようになった。

東京神学大学神学会編、『旧約聖書神学事典』、教文館、19831,19953、474頁、3914円。
79項目。主要概念や現代旧約学における重要語句が取り上げられている。各書の緒論は載っていない。各国における旧約学の学風が項目になっているのは特徴的。現代の旧約学者が6名挙げられているが、専門外の者にとってはフォン・ラートしか知らない。各項の執筆者は、巻末の分類目次で一覧できる。巻末には、1950年代から1981年8月までの日本での旧約研究の網羅的文献表と、シリーズもの注解書の著者一覧がある。1992年の再版で誤字の訂正と注解書一覧表にDie Neue Echter BibelとWord Biblical Commentaryが追加されている。2001.9に新装版が出た。
東京神学大学新約聖書神学事典編集委員会編、『新約聖書神学事典』、教文館、1991、665頁、5500円。
251項目。新約神学に関わる用語、概念、人物、方法論等について、水準の高い包括的説明がなされている。各書緒論も網羅して、かなり使える事典。ただこの手の事典には、目次に各項目を誰が執筆したかも記しておいてほしい。巻末には、1874年から1989年を網羅した「邦訳イエス伝並びにパウロ伝文献表」がある。
東京神学大学神学会編、『キリスト教組織神学事典』増補版、教文館、1983、463頁、3600円。
104項目。教理的な基本用語、教義学の重要概念、現代神学の諸問題、主要な現代神学者、各国の現代神学の状況など。人名索引、事項索引あり。巻末に、1982年2月までに発行された主要文献目録があり、教義学入門、聖書論、神論、創造論、予定論・・・などと分類されているので、とても見やすい。ちなみに初版は1972年で、91項目、文献目録はない。2002.4に新装版が出たようだが、中身は何も変更はない。

3.2 教団出版局の辞典で古いもの

30年以上前に出版されたものだから「古い」のだが、内容が古いかどうかは別問題。

佐藤敏夫、大木英夫編、『キリスト教倫理辞典』、日本基督教団出版局、1967、382頁。
105項目。各項目ともだいたい3-6頁ほど。目次に執筆者も記されているのは良心的。もはや古い項目もあるが、今なお有用そうなのは、「カトリックの倫理」、「キリスト教倫理学」などの概説のほか、大木英夫「愛(アガペー)」、加藤常昭「祈り」、鈴木正久「男と女」、佐藤敏夫「教会と国家」など。
高崎毅、山内一郎、今橋朗編、『キリスト教教育辞典』、日本基督教団出版局、1969、503頁。
114項目。これも目次に執筆者が記されていてよい。比較的ページが割かれている項は、「一般の教育とキリスト教教育」(小林公一)、「キリスト教教育史」(高崎毅)、「キリスト教教育理論」(山内一郎)、「神学教育」(熊澤義宣)などの概論。その他の項目は今やあまり役立ちそうにない。
岸本羊一、北村宗次編、『キリスト教礼拝辞典』、日本基督教団出版局、1977、427頁。
これら3冊の中で最も、全ての伝道者にとって有用と言える辞典。しかし、目次に執筆者が記されていないのは残念。巻末に索引が付いているのはよい。加藤常昭「礼拝学」の項は、礼拝学とは何かについて示唆深い。比較的多くのページを割いている項目は、「改革派教会、長老派教会の礼拝」(岸本羊一)、「カトリックの典礼」(土屋吉正)、「旧約聖書における礼拝」(新見宏)、「讃美歌――近世の讃美歌」(原恵)、「詩篇(歌)」(北村宗次)、「初代キリスト教の礼拝」(松木治三郎)、「聖餐」(加藤常昭)、「聖務日課」(岸本羊一)、「リタージカル・ムーブメント」(岸本羊一)、「礼拝史の歴史」(北村宗次)、「礼拝式文書」(北村宗次)。

組織神学事典としてはもっと古くは、マービン・ハルバーソン編(野呂芳男訳)『キリスト教神学辞典』(日本基督教団出版部、1960(1958)、382頁)。101項目を掲載。ほんとに古いけど、「エキュメニズム」の項はヴィッサー・トーフト、「エロースとアガペー」の項はニーグレン、「カイロス」の項はティリッヒ、「自己」や「自由」の項はラインホールド・ニーバーなど、興味深い。

3.3 比較的最近、教団出版局から刊行されたもの

W.H.ウィリモン、R.リシャー編(加藤常昭責任監訳、加藤常昭、深田未来生日本語版監修)、『世界 説教・説教学事典』、日本基督教団出版局、1999、570頁、16275円。
212項目。収録項目は、1.歴史的、神学的なテーマ、2.説教や説教者に関する実践的な事項、3.主要な説教者(説教の抜粋付き)に分けられる。「序文」に重要な分野ごとの主要な項目が示されている。神学としては「説教の神学」、「神の言葉」、「聖霊と説教」、「律法と福音」、「預言者的説教」など。解釈学としては、「解釈学」、「釈義」、「文学批評」、「旧約聖書説教」、「説教者」など。歴史としては、「説教の歴史」、「ピューリタンの説教」など。レトリックとしては、「言語理論」、「帰納的説教」、「物語の説教」など。礼拝としては、「礼拝説教」、「教会暦と説教」、「朗読聖書日課による説教」、「ホミリー」など。説教者としては「説教者の霊性」、「牧会的配慮と説教」など。説教準備としては、「講解説教」、「導入と結びのことば」、「説教題」、「原稿に基づく説教」、「説教の語り方」などが挙げられている。
ドナルド・K.マッキム(高柳俊一、熊澤義宣、古屋安雄日本語版監修)、『キリスト教神学用語辞典』、日本基督教団出版局、2002(1996)、492頁、8500円。
橋爪由美子編集協力、神代真砂実、深井智朗翻訳、山本浩翻訳協力。項目数は約6000項目と充実。「用語辞典」であるゆえ、説明はきわめて簡単。神学思想史上、教会史上、礼拝史上の決まった言い回しを知るのに有用だ。“こんな言葉があるのか”と単に「用語」を知るための辞典としてもおもしろい。全項目に英語表記(あるいはラテン語、ギリシャ語など)がつき、それら欧文表記の索引もある。
「見ゆる教会」は「可視的教会」でもEcclesia visibilisでも引けない。「可見的教会」で項目がある。しかも、「可見的教会」の説明の中で「見えざる教会」と出てくるが、もちろん項目としては「見えざる教会」も「非可視的教会」もなく、あるのは「不可見的教会」である。
今橋朗、竹内謙太郎、越川弘英監修、『キリスト教礼拝・礼拝学事典』、日本基督教団出版局、2006、522頁、9000円。
編集協力 川端純四郎。執筆者105人、400項目とのこと。1977年の『キリスト教礼拝辞典』が大項目主義であったのに対し、こちらは小項目も網羅。見出しには英語あるいはラテン語表記が添えられている。できれば英語・ラテン語等の索引もあれば良かった。すべての項目に執筆者が記されている。巻末にいろいろな十字架の形、各教派教会暦呼称対照表などがある。教団出版局のサイトに「項目表」あり。
東神大関係では、小友聡(「礼拝の歴史」の項の「旧約聖書」の部分)、加藤常昭(「教会堂建築」、「説教」、「説教前後の祈り」、「伝道礼拝」、「牧会と礼拝」)、中野実(「洗礼」の項の「初代教会」の部分)が執筆している。
比較的頁数を費やしているのは、「教会堂建築の歴史」(石田忠範他)8頁、「結婚式」(上林順一郎他)8頁、「堅信礼」(吉田雅人)5頁弱、「言葉の礼拝」(吉田雅人)6頁半、「式文の改訂」(森紀旦)5頁、「シンボル、象徴」(今橋朗)6頁弱、「聖書日課」(後藤憲正)5頁半、「洗礼」(北村宗次他)21頁半、「葬儀」(山本尚忠他)7頁、「土着化」(荒井俊次)6頁半、「任職」(大宮溥他)10頁強、「礼拝書、礼拝式文」(竹内健太郎他)26頁半、「礼拝の系譜」(越川弘英他)31頁弱、「礼拝の所作、動作、姿勢」(加藤博道)7頁弱、「礼拝の歴史」(越川弘英他)34頁。
「洗礼」の項には各教派ごとに分担執筆されて21ページ強も費やしているのに、「聖餐」の項は見出しのみで「主の晩餐」「ユーカリスト」を見よとなっている。しかもそれぞれたいした記述ではない。「陪餐」の項目があるのに指示はない。その「陪餐」の項目は、未受洗者陪餐を認めるのが世界の趨勢だという執筆者の持論の展開になっている。◆「クレド」の項で「信条」の項の存在を知ることができるが、「信条」の項から「クレド」の項の存在は分からない。◆「式文の改訂」は聖公会の例のみの記述。◆「司式者」とは別に「信徒司式者」の項があるが相互に参照できない。「教育館」と「信徒会館」も。「野外礼拝」の項から「墓前礼拝」の項を参照できるが、逆はできない。◆「韻律詩編」、「主教、司教、監督」の項に執筆者名のない付加がある。◆「礼拝の系譜」の項の中のユニテリアンの記述は無記名。
樋口進、中野実監修、『聖書学用語辞典』、日本基督教団出版局、2008、416頁、7560円。
基本的な用語から聖書学の専門家しか知らない用語まで、約600項目。著名な聖書学者や関連の哲学者、主な教父も項目化(アイスフェルト、アイヒホルン、アイヒロット、アルト、イブン・エズラ、ヴァイス、ヴェルハウゼン、ヴレーデ、エイレナイオス、エレミアス、オールブライト・・・)。関連項目を示す「→○○を見よ」が豊富。全項目に執筆者名が記されているのもすばらしい(執筆者60余名)。欧字索引もある。
基本的に一つひとつの項目の記述は短いが、3段を超える分量のある項目は、「応報」、「外典」(旧約と新約合わせて)、「ギリシア語旧約聖書」、「契約」、「五書」、「古代語訳」(旧約と新約合わせて)、「詩編の類型」、「聖書考古学」、「正統と異端」、「知恵文学」、「父なる神」、「伝承史」、「パウロ研究」、「碑文」、「福音書文学」、「編集史」(旧約と新約合わせて)、「本文批評」(旧約と新約合わせて)、「マルコ福音書研究」、「物語批評(物語論)」、「ユダヤ教神秘主義」、「様式史」(旧約と新約合わせて)、「預言と預言者」。
「神」の項(木田献一)には不満足を覚える。聖書学上議論されてきた(されている)ポイントを記すべき。例えば、「ヤハウェ」や「唯一神信仰」の項につながるような。
「祝福」の項はあるが「呪い」はない。
今橋朗、奥田和弘監修、『キリスト教教育事典』、日本基督教団出版局、2010、338頁、7140円。
荒井仁、古谷正仁(ふるや・まさよし)編集。164項目。執筆者105名。
項目になっている組織・団体名に「アジア・キリスト教協議会」、「キリスト教学校教育同盟」、「キリスト教保育連盟」、「世界教会協議会」、「日本カトリック学校連合会」、「日本キリスト教教育学会」、「日本聖公会関係学校協議会」。キリスト教と言いながら、「イスラームにおける宗教教育」、「親等における宗教教育」、「仏教における宗教教育」などの項もあり。

3.4 その他の神学事典

アリスター・E.マクグラス編(熊沢義宣、高柳俊一日本語訳監修)、『現代キリスト教神学思想事典』、新教出版社、2001(1993)、760頁、12600円。
カタログによると315項目。これはなかなかよい感じ。これも高価なので図書館で利用する。
A.リチャードソン、J.ボウデン編(古屋安雄監修、佐柳文男訳)、『キリスト教神学事典』、教文館、2005(1983)、628頁、5250円。
原著は、1969年に初版が "A Dictionary of Christian Theology" として出た後、1983年にその後の神学の潮流の変化に合わせて内容を一新して "A New Dictionary of Christian Theology" として出た。邦訳は原著1983年版からの翻訳で、最初は1995年にB5判箱付き13,500円で出たが、2005年に新装版が箱なしA5判で出た。編集協力者は、小高毅、栗林輝夫、関川泰寛、高橋保行、高柳俊一、竹内謙太郎ら。
全700項目。正教会、カトリック、アングリカン、プロテスタントの基本的神学用語をそれぞれの神学者が解説したらしいが、基本的論点を整理して紹介するというよりも、執筆者の独自の見解が語られている場合が多い感じである。各項目に文献表も付いている。日本語のものも追加されている。日本語版の序文やあとがきが全くないのが残念。
ドナルド・K. マッキム(石丸新、村瀬俊夫、望月明監修)、『リフォームド神学事典』、いのちのことば社、2009、17+418+11頁、6510円。
176項目。
鍋谷堯爾、藤本満、小林高徳、飛鷹美奈子監修、『聖書神学事典』、いのちのことば社、2010、688頁、7665円。
執筆者53名、173項目。
J.ゴンザレス(鈴木浩訳)、『キリスト教神学基本用語集』、教文館、2010、322頁、2940円。

4.聖書地図、年表、資料集

4.1 聖書地図

シモン・ジェンキンズ(後藤敏夫訳)、『わかりやすい聖書ガイドマップ』、CS成長センター、1989(1985)、128頁、1500円。
出エジプトの経路や神の箱が奪われた経路など「矢印」が豊富な多色刷りの聖書地図。とても便利。地勢の起伏もCGで表現されている。
ジョン・ストレンジ企画(池田裕翻訳、補説)『バイブルアトラス――『聖書新共同訳』準拠聖書地図』、日本聖書協会、1999(19983)、64頁、1900円。
経路よりも、国や民族の支配領域がわかりやすい。

もっと大型で値の張るものには、Y.アロハニ、M.アヴィ=ヨナ(池田裕訳)『マクミラン聖書歴史地図』(原書房、1988(1977)、198頁、15000円)がある。これは、より歴史的、考古学的である。もともとユダヤ人向けの地図のため、新約聖書の出来事は含まれていないが、解説は日本人向けに書き直されている。

他に、J.B. プリチャード編(荒井、山内他訳)、『聖書歴史地図』、新教出版社、1993。

4.2 聖書時代年表

2010.10.20全面的に更新

かつて、王国分裂は922年「クニフタツ」、北イスラエルの滅亡はそのちょうど200年後の722年、ユダ王国滅亡は587年「イワナイコッチャナイ」と覚えたが。。。。。

『旧約新約聖書大事典』(教文館、1989)のpp.1337-1382。
226年パルティア滅亡までの44ページにわたる「聖書歴史年表」。前30年までを山我哲雄、それ以降を山我哲雄、佐藤研が担当。該当する出来事の聖書箇所が分かるようになっている。王国分裂は926年、ユダ王国滅亡は587年。
山我哲雄、佐藤研『旧約新約聖書時代史――聖書歴史年表つき(別冊)』(改訂版、教文館、1997、312頁、3800円)は、初版は1992だが、改訂版で年表は一層くわしくなっているとのこと。
『新共同訳聖書辞典』(新教出版社、2001)のpp.583-589。
397年の「カルタゴ会議 新約聖書の正典成立」までを5ページで。それとは別に、分裂王国時代の王のみを2ページで見やすく記しているのは、工夫の跡が見られるが、どうせなら、預言者の活動時期も分かるようにしてほしかった。王国分裂は928年、ユダ王国滅亡は587年。
『新共同訳聖書事典』(日本基督教団出版局、2004)のpp.697-703。
165年頃のユスティノス殉教まで、7ページの分量。木田献一、和田幹男、橋本滋男による。分裂王国時代の年代は樋口進による。あまり見やすくない。王国分裂は926年。エルサレム陥落・ユダ王国滅亡は586年。新約各書の成立時期については記されていない。

『信徒必携』のpp.130-131が、南北王国の王だけでなく、主要な預言者の活動時期も分かりやすく記されていて、便利。新約各書のだいたいの成立時期も記されている。

とういうわけで、教会での集会などで学びのために使えそうな年表は、やはり分裂王国時代の王が分かりやすい、『信徒必携』か新教出版社の『聖書辞典』。

その他

樋口進『よくわかる旧約聖書の歴史』(日本基督教団出版局、2001)の巻末に4ページの「歴史略年表」あり。後135年のエルサレム陥落まで。王国分裂期の王の名がすべて記されているものではない。王国分裂は926年、ユダ王国滅亡は587年。

『岩波キリスト教辞典』(岩波書店、2002)のpp.1277-1299は、2002年の「ヴァティカン、ロシアに4司教区設置」までのキリスト教史の年表。紀元2世紀までの部分は2ページ。王国分裂は930年、ユダ王国滅亡は586年。

4.3 資料集

2015.11.23全面的に更新

考古学的な知見を紹介した資料として:

長谷川修一(月本昭男監修)、『ビジュアルBOOK 旧約聖書の世界と時代』、日本基督教団出版局、2011、96頁、2310円。
『目で見る聖書の時代』の姉妹版。こちらは旧約に限定し、『目で見る聖書の時代』出版以降の考古学的発掘の成果や研究動向を踏まえているとのこと。
カラー。洪水伝説(ノアの洪水物語とメソポタミアの洪水物語の類似を表にして比較)、バベルの塔とジックラト、父祖たちとラクダ、衣服と装身具、住居(仮庵、天幕など)、周辺民族(ペリシテ、アラム、モアブ・アンモン、エドム、フェニキア)、周辺世界の宗教と偶像(カナンの神々と偶像など)、宗教施設(幕屋、燭台、ソロモンの神殿など)、町(城壁、門など)、埋葬と墓地、碑文、世界帝国アッシリア、交易、食物(パン、骨、ワイン、オリーブなど)、戦いと武器、音楽(竪琴、太鼓、笛、角笛など)の全16項目。五つのコラムを途中に挟む。「旧約聖書と碑文」、「イスラエルの地理と気候」、「古代イスラエルの道」、「古代イスラエルの暦」、「聖書の動物――ライオン」。碑文については本文とコラムの二つに分かれていて、構成としてはいまいちの感じが残る。
旧約聖書を残した信仰者たちは、特定の教義の枠で信仰を語るのではなく、具体的な「人間模様を物語として紡ぐなかで」、「歴史に働く神の意思を見きわめようとした」。「この民には、ピラミッドや壮麗な神殿のような大建造物を残す財力も技術もなく、アッシリアやバビロニアのように周辺諸民族を支配する軍事力ももたなかった。それどころか、メソポタミアとエジプトの狭間にあって、強大国に翻弄され続け、幾度となく民族存亡の危機にさらされた」。弱小の民である「彼らが苦難の歴史のなかで培ったものといえば、目に見えない唯一の神への確かな信仰のほかにはなかった」。(月本昭男による「本書のすすめ」、p.2)
旧約聖書は、「歴史的事実を客観的に記述することを主たる目的にしていない」。「逆説的に言えば、「歴史」と聖書記述の狭間にこそ、・・・古代イスラエルの民の信仰と思想を読み取ることができる」。(「あとがき」、p.95)
月本昭男、『目で見る聖書の時代』、日本基督教団出版局、1994、128頁、1680円。
これまでの聖書考古学の成果の中から、親しみやすい主題36項目を選んで紹介。新約の時代まで含む。単に考古学的な知見を記すのみならず、「聖書の記述が、豊かな水に潤されるエデンの園(創世記2章10節)に始まり、「命の水」が流れる新しいエルサレムの幻(ヨハネの黙示録22章1節)で終わっているのも、偶然ではありません。」(p.18)とか、「聖書は、しばしば人間をこのような土器にたとえます。土器と同じように地の塵(=粘土)によって造られた人間は、ついには地の塵に帰る存在だ、と言われます。と同時に、わたしたちは土の器のような存在でありながら、その土の器の中に、はかり知れない宝を持っている、とも言うのです。」などと、信仰的な聖書理解を語るのが特徴的。索引あり。写真は横山匡。
第1章と第2章は遺跡や出土品から、山の上にある町は隠れることができない遺跡丘(テル)の話、古代イスラエルの起源と成立、城壁と城門、飲み水と水道、家屋、墓、土器、パン、オリーブ油とぶどう酒、古代ヘブライ文字、印章、楽器。第3章は『考古学資料と歴史の再発見」として、エリコ攻略の史実性とカナン征服の意味、エルサレム神殿の姿、ソロモンの厩舎・貯蔵庫、王国時代のエルサレムの町、アッシリア彫刻に描かれたイスラエル、ユダ王国の滅亡。第4章は「イエスから初代教会へ」で、ガリラヤ湖の漁師、町や村、新約時代のエルサレム、死海文書、エルサレム教会の成立とその後、シナゴーグ。第5章は周辺民族について、エジプト文明、アラム人とアラム語、フェニキア人、ペリシテ人、モアブ・アンモン・ヨアブ、サマリアとサマリア人。第6章は命の木、ケルビム、洪水物語、バベルの塔、カナンの神々、祭壇。