■神学入門
1.神学とは何か
『キリスト新聞』2002.10.19号3頁の「特集 21世紀の神学と教会 ニューリーダーたちに聞くC」で、神代真砂実が「神学を学ぶための10冊」として次のものを挙げている。バルト『福音主義神学入門』、バルト『教義学要綱』、ティリッヒ『キリスト教思想史T、U』、H.リチャード・ニーバー『キリストと文化』、ルター『キリスト者の自由』、カルヴァン『信仰の手引き』、T.F.トランス『科学としての神学の基礎』、ダニエル・ミグリオーリ『理解を求める信仰』(邦訳なし)、コリン・ガントン『説教を通しての神学』(邦訳なし)、そして、マクグラス『キリスト教神学入門』。
1.0 入門の入門?
- 深井智朗、『神学の起源――社会における機能』(シリーズ神学への船出03)、新教出版社、2013、226頁、1890円。★
- そもそも、神学はどのようにして時代や社会の中で生まれてきたか。各時代の具体的状況との関わりや社会の要請によって神学が営まれてきたことを語る講演を元にした全8講。四六判変形(縦長)で、全ページの下段が注のエリアになっている。
1.1 入門
- A.E.マクグラス(芳賀力訳)、『神学のよろこび――はじめての人のための「キリスト教神学」ガイド』、キリスト新聞社、2005.4(2004)、281+27頁、2800円。
- 原著名は "Theology: The Basic"。藤原淳賀(ふじわら・あつよし)は、「『神学――ことはじめ』くらいでもよかったかもしれない」と言っている(『本のひろば』2005.8、p.15)。帯は、「信仰の足腰を鍛えるために神学を学ぼう!!」。教会や大学の聖書研究会、神学校の基礎クラスなど、まったくの初心者を対象としている。基本的な語彙(専門用語)を説明しつつ、神学の基礎的な主題や論争を紹介し、また、代表的な神学者の著述に触れ、「もっとよく知りたいという知的食欲」をそそらせることを目指している(「まえがき」、p.11)。『キリスト教神学入門』と『キリスト教資料集』と共に神学への入門三部作をなす。巻末にごく簡単な「神学用語略解」と「神学者紹介」がある。ついでに引用文献一覧やその邦訳の紹介があると良かった。
- 神学のアプローチとして(1)代表的な神学者の著作に学ぶ、(2)2000年の神学の歴史に学ぶ、(3)主題別に学ぶ、の三つがあるうち、本書は(3)のアプローチであって(p.16-21)、神学の三つの源泉(聖書、伝統、理性)を紹介た後、使徒信条に沿って、信仰、神、創造、イエス、救い、三位一体、教会、天国を取り上げている。
- さまざまな神学者、思想家を次々と登場させながら進められていく。たとえば「信仰」の章だけでも、トマス・アクイナス、ウィリアム・ペイリー、パスカル、ポーキングホーン、ルター、カルヴァンらが登場する。
1.2 概要を知る
- A.E.マクグラス(神代真砂実訳)、『キリスト教神学入門』、教文館、2002(19941,19972,20013)、860頁、7500円。
- 高いがぜひ買う価値があると訳者が太鼓判を押す好著(書店で見かけたら、訳者あとがきを見よ!)。著者は聖公会ローチャーチ、訳者は東神大の先生、そして、徳善義和(ルター派)、高柳俊一(カトリック)、宇田進(福音派)が推薦しているというのがすごい。読者が神学について何も知らず、また英語以外の言語を知らないことを前提とした、神学入門のための入門書。「第一部 キリスト教神学思想史」で4章に分けて思想史を概説、「第二部 資料と方法」で神学の方法論、「第三部 キリスト教神学」では、各教理分野における諸問題を紹介。中心的な教理を概説するのではなく、議論されている(されてきた)論点を扱う。多くの文献が紹介されているが、すべて英語。巻末に神学関連のWebサイトの紹介があるのが注目されている。マクグラスの全邦訳とリンクはこちら。
- 熊野義孝、『キリスト教概説』(新教新書63)、新教出版社、1962初版、1997復刊、159頁、1000円。
- 1981第21版の後、1997年に名著復刊第2集「教会に生きる」の10冊の内の一つとして復刊。一般大学での講義をもとにした概説。「教理の解釈や信仰の弁証論ではなく、人類の歴史において、今日現実に存在するキリスト教の状況とその信仰内容とを、なるべく一般的に、しかも真理問題として」取り上げる。「<キリスト教とは何であるか、何を信じるか、何をなすか>というような問いに対する応答」である。第1章キリスト教の本質、第2章神学の基礎づけ、第3章神学の主要問題。『熊野義孝全集第4巻 神学概論』(新教出版社、1982)に収録されている。
1.3 「神学する」とはどういうことか
短い記述としては、佐藤敏夫『キリスト教神学概論』のpp.3-17「教義学序説 第1章 神学と教会」や、桑田秀延『基督教神学概論』のpp.17-45「緒論 教会の学としての神学」がある。赤木善光の「教会なくして神学なし」という小論(『教会的キリスト教』東京神学大学パンフ30)もおもしろい。
- 神代真砂実、川島堅二、西原廉太、深井智朗、森本あんり、『神学とキリスト教学――その今日的な可能性を問う』、キリスト新聞社、2009、164頁、1575円。
- 神代真砂実「「『教会の学』としての神学」という視点から」、川島堅二「宗教学の責任と可能性」、西原廉太「「キリスト教学」とは何か」、深井智朗「日本で「神学する」とは」、森本あんり「神学の学問的特質をどこに尋ねるべきか」。
- カール・バルト(井上良雄 訳)、『啓示・教会・神学』(新教新書34)、新教出版社、1960初版1962再版(1934)、130頁。
- 『カール・バルト著作集2』に所収されているが、新書版はいまも出ている。後半は「福音と律法」(著作集5にも所収)。どちらも重要な著作。かなり読み応えがある。
- 北森嘉蔵、『神学入門』(新教新書29)、新教出版社、1959初版1961再版、155頁。
- 神学の入門というよりは「神の痛みの神学」の入門書。バルト神学よりも神の痛みの神学のほうがまともだよという本。まあ、読みやすくおもしろい。特に前半がよい。
1.4 本格的なもの
- カール・バルト(加藤常昭 訳)、『福音主義神学入門』、新教出版社、1962(1962)、266頁。
- 「神学とは何か」を神学的に考察したかなり濃密な論述。誤訳を訂正して『カール・バルト著作集10』に所収。内容は相当深く、読み応えあるのでじっくり読む。2003年に新教セミナーブック18として再版された。
バルトが「神学の課題」について論じたものに、「キリスト教宣教の危急と約束」、「神学の課題としての神の言葉」、「神学における運命と理念」(いずれも『カール・バルト著作集1』所収)がある。また、トゥルナイゼンに「神学の課題」という論文がある(『トゥルナイゼン著作集 第4巻』)。
- 熊野義孝、『キリスト教概論』 (『熊野義孝全集第6巻 キリスト教本質論』、新教出版社、1978)。
- 1947年初版。しかし、叙述そのものは戦争中に執筆された。第1篇「宗教としてのキリスト教」、第2篇「特にキリスト教的なるもの」、第3篇「福音的教会の理念」で、全10章。宗教とは何かという問いに始まって、福音的教会の理念を問うという問題領域に至る。最後の章は「信仰告白」。
- 本書の方法は独創的、画期的であって、「後代に至るまでその名をとどめる現代の名著のひとつ。」(『キリスト教名著案内 下』1965での加藤常昭の評)
2.現代神学の入門的概説
ここでの「現代」とは、“今はやりの”ではなくて、近代以降という意味でだいたい20世紀の神学。
教義学的あるいは神学史的な観点からの現代神学を最も手っ取り早くおおざっぱな流れを知るには、桑田秀延「キリスト教の本質」(桑田秀延全集刊行会編『桑田秀延全集 第2巻』、キリスト新聞社、1975年)がある。1932年初版、1947年復刊。神学の入門書的著作の「第5章 近代の神学」で、シュライエルマッヘルからバルトをたった30ページほどで概説。
- 笠井恵二、『20世紀神学の形成者たち』、新教出版社、1993、306頁、3200円。
- 教科書的概説書。ドイツ語圏の故人に限定して、シュヴァイツァー、バルト、ブルトマン、ブルンナー、ティリッヒ、ボンヘッファーの6人を取り上げて、生涯と神学(特にキリスト論と救済論)を紹介。
- A.E.マクグラス(神代真砂実訳)、『キリスト教神学入門』、教文館、2002、804+47頁、7500円。
- 「第1部 キリスト教神学思想史」の「第4章 近・現代」で、18世紀半ば以降の思想史的な流れを広く知ることが出来る。
- 近藤勝彦、『二十世紀の主要な神学者たち――私は彼らからどのように学び、何を批判しているか』、教文館、2011、196頁、1995円。★
- バルト、ラインホールド・ニーバー、ティリッヒ、ブルンナー、モルトマン、パネンベルク、トレルチ、ファン・リューラー。そして最後に、「神学の押さえどころ」と「神学を学ぼうとする人々に」。
W.E.ホーダーン(布施濤雄訳)『現代キリスト教神学入門』、日本基督教団出版局、19691、199714(1955初版1968改訂版)は、原題は"A Layman's Guide to Protestant Theology"。根本主義と保守的キリスト教、自由主義、新正統主義、ブルトマン、ボンヘッファーなどを簡潔に概説。ラインホールド・ニーバーについて簡潔に紹介している本は他にないかも。
C.F.ヴィスロフ(鍋谷堯爾、勝原忠明訳編)『現代神学小史――改訂新版』(いのちのことば社、1500円)を本屋で見てみたが、簡単すぎかつ一面的過ぎで全然ダメ。
現代神学というよりもむしろ、現代社会の具体的諸問題への関心としては、熊澤義宣、野呂芳男編『総説現代神学』(日本基督教団出版局、1995、590頁)の目次だけ眺めておけばよい。
J・L・フロマートカ(平野清美訳、佐藤優監訳)、『神学入門――プロテスタント神学の転換点』、新教出版社、2012(1955)、268頁、1890円。1948〜1949年度に当時のフス派チェコスロヴァキア・プロテスタント神学部で行われた講義。「勉強の仕方」から始まって、自由主義神学とその内的矛盾、弁証法神学、危機神学、一九二一年以降のバルトまで。解説は佐藤優。
3.神学通論、神学諸科解題
熊野義孝「神学諸科解題」(『熊野義孝全集第4巻』、新教出版社、1982、197-284頁)は、『キリスト教講座』(新教出版社、1952)のために書かれたもの。『キリスト教大事典』の「神学通論」の項も熊野義孝。
古典的には、シュライエルマッハー『神学通論』(加藤常昭訳、教文館、1962、196頁)。これはハインリッヒ・ショルツの「解説」つき。加藤常昭はどこかで、死ぬまでにもう一度訳し直したいと言っていた。→→→F.シュライアマハー(加藤常昭、深井智朗訳)、『神学通論(1811年/1830年)』、教文館、2009、332頁、3360円。第1版(1811年。深井智朗による本邦初訳)と第2版(1830年。加藤常昭による改訳)を併せて収録。巻頭に加藤常昭「はじめに」、巻末に深井智朗の「解題」あり。